2012年10月26日
第7回 大井川鐵道

茶畑の中、汽笛と蒸気音を響かせながら走りぬけていく蒸気機関車。鉄道ファンでなくとも、ワクワクと心をくすぐられるノスタルジックな風景に出合える大井川鐵道。金谷駅を起点に、その名の通り大井川の流れに沿って北上し、南アルプスの玄関口、井川駅までの道のりを結んでいます。
SL列車「かわね路号」が走るのは新金谷駅~千頭駅までの37km、約1時間20分。基本は1日1往復ですが、土日や繁忙期には2~3往復を運行しています。SL列車は全席指定。満席になることも多いので事前の予約がベストです。

いつまでも大切にしたい美しい風景が続く
SL列車以外にも、近鉄・南海・京阪と各社からやって来た電車が集まっています。そんなバラエティ豊かな車両が揃うのも大井川鐵道の魅力。かつて街中を走っていた電車が、自然豊かな山奥で『第2の人生』をスタートし、「わしもまだまだいける」と緑の中を駆けぬけ、乗客を笑顔にしている姿はなんだか誇らしげに見えます。
汽笛が鳴り響き、力強く動き出す「かわね路号」。シュッシュッという蒸気音に、レトロな車内、特別な旅の雰囲気に期待がふくらむ中、SLおじさん、SLおばさんと呼ばれるSL専務車掌の明るい声が聞こえてきます。沿線の見どころをアナウンスしたり、ハーモニカ演奏で車内を和ませてくれたり。「かわね路号」唯一の停車駅である家山駅周辺は、約1kmにわたる桜並木の脇を列車が通り過ぎます。その先の茶畑をぬけ、大井川第一橋梁を渡ると、沿線には露天風呂が。古い日本映画のワンシーンのような風景にほっこりさせられます。

SL列車の終点は千頭駅。この先は井川線となり、25.5kmを1時間50分かけて小さな列車がトコトコ進んでいきます。日本唯一のアプト式区間があり、機関車に付けられた歯車が歯形レールを噛みながら急勾配を登っていきます。
圧巻なのは、コバルトブルーの美しい接岨湖にかかる奥大井レインボーブリッジからの眺め。橋の途中に奥大井湖上駅があり、接岨峡温泉側の橋は歩道が併設されているので、ハイキングコースとしても人気です。
ここから先、終点の井川駅まではまた趣が変わり、深く険しい手つかずの風景が続きます。川底からの高さ約71mの関の沢橋梁では、1分ほど停車するサービスが。窓から顔を出して、その高さと風を感じ、吸い込まれるようなスリルを味わえます。

広大なダム湖にかかる鉄橋を渡る
映画やドラマの撮影によく利用されるレトロな木造駅舎、素朴な味わいの駅弁、風情たっぷりの露天風呂、幻想的な初夏のホタル観賞、ダイナミックな巨大ダム、爽快感とスリルあふれる吊り橋……途中下車してたっぷり時間をかけて楽しみたい見どころが満載。見て、乗って、降りて、驚き、発見、感動、郷愁、人情。大井川鐵道を走る個性豊かな車両のように、さまざまな感情に彩られる旅。春夏秋冬、季節ごとに訪れてみたいものです。
Posted by eしずおかコラム at 12:00